阪急電車

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 著者の本は「空の中」と「図書館戦争」の2冊を読んだことがある。本作はそれらに比べると苦い。それも青春とか若さゆえのものではなくて、人の世に発生する毒のような暗い苦さだ。
 一駅で一遍のお話に描かれる人間模様、事件にはそんな暗さが垣間見える。それは長く生きていると一度や二度は出会うような事件なのだが、当事者にとってはクリティカルな事件だ。だが、誰かが手を差し伸べるかどうかわからない。もう少しで、ほんの一押しで深く傷ついてしまう、破滅してしまう……。それが、同じ電車に乗りあったというだけの縁でつながった人々がときに助け、助けられる。


 ただ、ここに悪役として登場する人はいずれどこにでもいそうな、あるいは自分もこれからさきそうなってしまうかもしれない、過去の育った環境が違えば自分がそうなっていたかもしれない、そういう人たち。だから、彼らをただストーリー上のかませ犬としてとして物語世界から退場させ、主人公に感情移入することはできない。
 これは言い方は悪いが、否定的に評価しているわけではない。そういう描き方もアリだと思う。(図書館戦争についての評で戦闘に緊迫感がないというのがあったが、生と死の問題に必要以上に踏み込まずにすむのであれはあれで良いと思っている)


 さて、この本を読むまでのお話。
 半年くらい神戸に住んでいて、阪急電車に乗る機会があったので、読んでみようとは思っていた。当初は図書館で借りようとして、検索してみたところ、神戸市内で100冊強の蔵書があってさすが都会は違う、と思ったのだが、全て貸出中または予約済。せっかく図書館に来たので、図書館内乱を借りようとして、図書館戦争で検索したら20冊程度しかない!! 阪急電車の5分の1しかない。地元びいきが露骨ですよね関西人は……。