鬼平犯科帳 第六巻

「まあ、そりゃあそうだが……でもねえ、政さん。おれは、むかし、勢州(三重県)関の宿場で捨子にされてねえ」
「へ……伊三次さんが?」
「捨子さ。二つのときだ。そのおれを、関の丹後屋という店の宿場女郎のみなさんが拾ってくれてね、それから十になるまで、おらあ、そこの女郎衆に育ててもらったのさ」
「へへえ」
「ま、そういうわけで……こういうところの女たちに、難儀がかかることは、おらあ困るのだ。いやなのだよ」
「へ……よっく、わかりやした」
 政吉、ちょっと感動したようである。
P52