2012-04-14 鬼平犯科帳 第六巻 読書 文芸 「まあ、そりゃあそうだが……でもねえ、政さん。おれは、むかし、勢州(三重県)関の宿場で捨子にされてねえ」 「へ……伊三次さんが?」 「捨子さ。二つのときだ。そのおれを、関の丹後屋という店の宿場女郎のみなさんが拾ってくれてね、それから十になるまで、おらあ、そこの女郎衆に育ててもらったのさ」 「へへえ」 「ま、そういうわけで……こういうところの女たちに、難儀がかかることは、おらあ困るのだ。いやなのだよ」 「へ……よっく、わかりやした」 政吉、ちょっと感動したようである。 P52