ファスト・ミュージック

 少し前までは、音楽は芸術だった。携わった人みんなに、パフォーマーにもその自負が(いくらかは)あったと思う。
 何より、聴く人がそれをふまえていたと思う。

 音楽を芸術として楽しむか、娯楽として聴くかは、そのとき、その人によって変わる。市場では棲み分けることもできる。


 そのうちに、音楽を娯楽として消費する機会と人とだけが残った。
 それは市場に反映し、娯楽たり得る音楽だけが残った。


 気が向いたときに、すばやく、ちょっとだけ、気軽に、何かをしながら……。
 そんなスタイルで消費されることがほとんどになった。
 それに適した音楽が供給された。
 そうやって出来上がったものは、ハンバーガーや牛丼やらのファスト・フードと変わるところがない。どこにも特徴がなくて、そのくせ新作がどんどん投入される。


 音楽をプレイすること、liveで受け取ること、この二つには音楽の絶対性が残っている。でも、これらは市場を支えるようなものではない。
 芸術としての音楽を志す人には不遇の時代なのかもしれない。ただ、作って演奏して発表するだけのインフラはある。それが救いになるのだろうか?