イルミナエ・ファイル
作中の人工知能が独白、あるいは自問する「わたしは慈悲深くないのか?」が英語だとどういうニュアンスなんだろう。
本書はアーカイブからサルベージされた記録データの解析という体で記述されている。
語られる物語のそのすべてが既に起こったことの記録であるということが、読者に冷静さや客観性を強制し、興奮というよりも抑制的な緊張感のなかで読むことができたような気がする。
ラストのカタルシスが大きいのもその反動かもしれない。
コンピュータ技術に強いキャラクターはGeekであり、クールかマッドな人物造形なのが主流だったように思うが、本作では彼氏持ちの(おそらく)美しい女性となっている。
IT、人工知能が一般社会に普及したことが背景にあるだろう。
以下ネタバレ
通話の相手が当該人物でなくAIが成り代わっているという設定は、今の時代になるとすんなりと理解できるものであり、簡単にだまされてしまうだろうということが”現実的な実感”としてある。SFが現実になっていく。